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一橋大学大学院社会研究科 内藤正典データルーム
...内藤正典による中東・西欧マンスリーを中心としたニュース解説、「イスラームによるヨーロッパへの挑戦」をテーマのもと
COEプロジェクトにおいて制作した、各国政治家へのインタビュー、イスラーム組織の実態などの映像コンテンツの一部を紹介するサイトです。
オランダで実施されたEU憲法に関する国民投票では、主要政党であるCDA(Christen Democratisch Appèl:キリスト教民主勢力)、VVD(Volkspartij voor Vrijheid en Democratie:自由民主人民党)、そしてPvdA(Partij van de Arbeid:労働党)は、いずれも賛成票を投じるよう国民に訴えかけていた。そうしたなか、派手なパフォーマンスを交えて、EU憲法に対して大々的に反対キャンペーンを展開した政治家がいた。ヘィルト・ウィルダース(Geert Wilders)という人物である。
現在42歳になる彼は、1990年から政治活動を開始し、1998年から現在にいたるまで、下院の国会議員を務めている。2004年9月まではVVDに所属していたが、その後脱党し、自らの名を取った「グループ・ウィルダース」という政党を立ち上げるにいたった。彼の主な主張は、肥大化した政治や官僚機構に対する批判、「自由」を最も重んじる社会、そして国内のムスリムに対する統合・同化政策の強化などである。近年のEU諸国において登場する、ポピュリストの政治家に典型的な論調といえる。彼の場合、反イスラーム感情をむき出しにした言動と態度がとりわけ目立つ。
オランダの経済紙NRC Handelsbladによれば、彼の政党が確保しうる議席数を予測した調査結果で、2004年9月の時点では約10数議席であったものが、同年12月には30議席と大幅に増加していることが明らかにされている。この背景には、同年11月2日に起きた、Theo van Goghという映画監督の殺害事件がある。それは、抑圧されたムスリム女性を描く短編映画の制作がきっかけとなり、オランダで生まれ育ったムスリム(モロッコ系)によって殺害されるという事件であった。この事件の結果、オランダでは反イスラーム感情の高まりが見られた。後に、ウィルダースの政党の予測議席数は10前後に収束するのだが、この議席数の変化は、彼の存在が、オランダ社会の反イスラーム感情を吸収する受け皿となっていることを如実に示すものであった。
2007年に予定されている選挙を視野に入れて、2005年3月に作成されたマニフェスト『独立宣言(Onafhankelijkheidsverklaring)』では、いくつかの項目別に彼の論が展開されている。今回、争点となったEU憲法についても、彼は「ヨーロッパ」という項の中で、きっぱりと棄却の意思と必要性を説いている。加えてこの項では、共通通貨ユーロに対する批判とオランダ通貨ギルダー復活の可能性や、EUに対する現在の支出金のうち90%を減額することなどが主張されている。また、「トルコが入るならば、オランダは出て行く」と、トルコのEU加盟についても、強い調子で全面否定することを忘れない。
オランダの国民投票におけるEU憲法の否決によって、既存の政党は、今回明らかになった各支持基盤との溝を埋めつつ、後戻りできないEU統合政策も同時に進めていく方途を探る必要に迫られる。その一方で、EU憲法をめぐるウィルダースの主張とキャンペーンは、結果的に国民に支持された格好となり、彼の今後の活動をさらに活気づける契機となった。オランダ政治は、ますます混迷の様相を呈しているように思われる。
(COEリサーチフェロー・日本学術振興会特別研究員 見原礼子)