2008年8月11日
内藤 正典

グルジア・ロシア戦争とトルコ

南オセチア問題とサアカシビリの賭け
 コーカサスの国、グルジアには、東北部、ロシアに接する地域に南オセチアがあり、西部にはアブハジアがある。南オセチアではグルジアとはもともと民族的に異なるオセット人が多いところから、グルジアからの分離独立、ロシア領北オセチアと同様にロシアへの併合を求める勢力があり、グルジアは、北京オリンピック開催という世界の注目が集まる次期に、軍を侵攻させ、両地域をグルジア政府のもとに実質支配する戦略にでた。
 これに対して、ロシア軍はロシア系住民を保護する名目でグルジア領内を空爆したほか、地上部隊も展開させ、さながら両国は戦争状態に入った。よく知られているとおり、グルジアは、NATOへの加盟を希望しており、米国およびトルコの支援で、軍の再編・強化が進められていた。今回のロシア軍の攻撃は、グルジアのロシア離れ、親欧米政策に対するロシアの牽制である。

トルコ側からの視点
 トルコは、一貫してグルジアとの有効協力関係を維持している。グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンというコーカサス三国の関係は、なにしろアルメニアとアゼルバイジャンが90年代初頭にアゼルバイジャン内部にあるアルメニア系住民の飛び地ナゴルノ・カラバウをめぐって、激しい戦闘になった経緯があるから、アルメニアとアゼルバイジャンの関係は極めて悪い。
 トルコは、アルメニアとの国交がなく、言うまでもなく両者の関係は極めて冷え込んでいる。これは、歴史的に、アルメニア側がトルコによって同民族の大虐殺が行われたと主張してきた背景があるためである。
 トルコとアゼルバイジャンは、同じトルコ系民族で、言語的にも近いところから極めて親密な友好関係を維持している。そして、トルコとグルジアも、アルメニアを挟み撃ちにしている関係上、友好的である。特に、アゼルバイジャンのバクー、グルジアのトビリシ、そしてトルコのジェイハンを結ぶBTCパイプラインは、コーカサスおよび中央アジアから西側に抜ける重要な原油輸送ルートとなっており、グルジアの不安定化はトルコ経済にとっても死活問題となりかねない。
 戦闘開始以来、トルコはグルジアの首都トビリシげの電力供給が切断されたところから、トルコ川から80万キロワットの送電を開始している模様である。
 エルドアン首相は、いまのところ、グルジア、ロシアの両者に即時停戦を求めているが、ロシア外相は、10日、グルジアの軍備増強の背後には米国とトルコという二つのNATO加盟国がいるとして、トルコを非難した。トルコ国内では、グルジアに対する同情論が強く、政府も、平和的手段でグルジアに対する人道援助を行うことを表明している。
 10日は、BTCラインがロシア軍の攻撃を受けたが被害が出なかったとトルコ側メディアが報じた。トルコとの直接の外交関係よりも、BTCラインに打撃を与えることがロシア側の今回の侵攻のなかに含まれていると、アゼルバイジャン、トルコ両国を敵に回すことになりかねない。
 大きな石油資源をもたないトルコにとって、中央アジアからコーカサス、そしてトルコに抜けるBTCパイプラインの存在は、いわばエネルギールートの生命線であり、これは、トルコ以西のヨーロッパ諸国に対する石油・天然ガス供給ルートとしても戦略的にきわめて重要な意味をもつ。
 すなわち、ペルシャ湾岸経由の輸送ルートが、万一、制裁を強化されているイランの反撃でホルムズ海峡封鎖という事態に至った場合、緊急に石油をヨーロッパ方面に供給できて、かつロシアの影響下にないルートは、基本的にBTCラインに依存することになるからである。
 グルジアとしては、アメリカやEUに支援要請を行うことになるが、同時に、国境を接するトルコにも各種の要請があったものと思われる。軍事的に事を構えることはないとしても、トルコにとっては、重要なエネルギールートの確保という戦略的課題にとって、今回の戦争は極めて憂慮すべき事態となっている。

コメンター別アーカイブ 時系列順アーカイブ 関連リンク お問い合わせ